なにわの海の時空館は再び復活することはできるか

外国人観光客(インバウンド)

今回は「もと・なにわの海の時空館」についての記事を書く。前回(リンク)に続いて連続となる。

私はこの博物館に行ったことはないのだが、大阪(大坂)はもともと海運で発展してきた都市であり、そういう歴史を大事にしようという精神は良いと思う。

ただ単純に展示内容は大阪の海の歴史ということで一般受けしないし、大阪市の経営も下手くそだったため、10年ちょっとで破綻することとなった。今も無造作に館内に放置されている展示物を見て、少し悲しくなった。せっかく立派な菱垣廻船の「浪華丸」も博物館真ん中に鎮座しているだけで、役に立っていない。

前回の記事では、リニューアルが成功する難易度が高い件をつらつらと書いた。入札する業者が長らく現れなかったのであり当然ではある。ただネガティブなことばかり書いていても建設性がないので、今回はどうやれば成功するのか、私の個人的な意見を書こうと思う。なお、前回同様、あまり情報が出ておらず推測や仮定で書いている部分もあるため、一部に不正確な点があるかもしれない。

個人的な考えだが、負の遺産であればあるほど、成功したときのインパクトは大きくなる。例えば、関西空港はバブル崩壊後に完成し、利用者低迷が続いて長らくお荷物だったが、インバウンド爆発以降は関西経済を牽引するエンジンとなった。フランスのヴェルサイユ宮殿は作った当初はただの王様の無駄遣いだったが、時代を経てフランス観光の主力となり多額の外貨をフランスにもたらしている。というように、負の遺産であった「なにわの海の時空館」だって、うまく活用できれば大阪にとって重要な観光資源になりうる。そういう意味で今回のリニューアルには期待している。

皆さんもアイディアがあればコメントで教えてください。

記事の要点

・①のドームは上手くいく可能性あり。コンテンツの品質向上と広告宣伝を十分にやることが大事。

・②のエントランスパークは知らん。

・緑のゾーンは収益化が難しいので何もしないが正解。

3つのゾーンがある

画像引用元:下記のプレスリリース

シンフォニックスリール株式会社のプレスリリース(PDFのリンク)によると、当案件は3つのエリアから構成されている。

  1. ①Premium Jewelry Dome Osaka(ドーム)と入口の建物
  2. ②エントランスパーク(黄色の空き土地)
  3. それ以外(緑色のソーン)

である。以下では、それぞれについて具体的に見ていく。

 

①の事業は難易度は高いが、大化けする可能性がある

もの悲しさ漂う時空館

①は本体(ドーム部分)と入口の建物である。報道によると「建物は売買」とのことなので、これらは事業者に5600万円で売却されると思われる。

 

画像引用元:プレスリリース

事業としてはイメージ画像にある通り、ステージ真ん中にある船(なにわ丸)を中心に演劇などが行われ、周辺に配置されたソファーに観客が座ってイベントを楽しむ、といった感じだろう。ワイングラスを持っている人がいることから分かる通り、簡単な軽食やドリンクも提供されることも考えられる。

このサービス内容であれば勝機はあるんじゃないかと個人的には思う。似たようなサービスを行っているところもあって先例もある。先例がある=事業として成り立つ可能性があるということである。先行事例を研究しつつブラッシュアップすれば、大阪の魅力を引き上げられるようなインバウンド向けのコンテンツが作れるかもしれない。

 

入口内部の写真

上は入口内部の写真である。昔の施設であることや時間経過により若干古っぽさは感じるものの、ちゃんと清掃して一部を修繕すれば、そのまま使えそうである。

後述する通り、ドーム本体には相当投資が必要であると想定されるので、それ以外はシンプルにしてなるべく投資額を減らすのが良いんじゃないかと思う。入口の建物は重要ではないのでなるべく少ない投資で済ませたい。シンフォニックスリール社の経営状態は分からないが、今年設立された会社であってキャッシュは潤沢にあるわけないのが普通なので、資金の投入にはかなりメリハリを付けないといけないだろう。

 

ぐるぐる館内を見てみて下さい

10年以上前、海の時空館が閉館する前に撮影された貴重なストリートビューである。謎に残っている。リニューアル後のイメージを考える上では非常に参考になるだろう。

まず博物館だけあって構造がイベント向きではない。3つある巨大な円筒(恐らく展示スペース)が邪魔になっている。船をステージ中央としてイベントをする場合、観客が座るソファーを周辺に置きたいが、円筒部分がかなり邪魔をしている笑。資金的に可能であれば、円筒を1つぐらいは除去してスペースを確保することも必要かもしれない。

また、博物館だけあって内装や設備もイベントに不向きのため、リニューアルにはケチらず十分に資金を投じないといけない。ここが中途半端になると雰囲気が作れず出来上がりが微妙になってしまう恐れがある。

本体ドームのコンテンツの質、つまり、ドーム内部の内装・設備やイベントの面白さ・斬新さ・ユニークさ、提供される飲食サービスの品質などを高め、総合的な満足度を向上させることが今回のプロジェクト成功のために最も重要だと思われる。また、そのためには十分な投資が必要となる。

 

また、コンテンツの質と同様に、プロモーション(広告宣伝)も重要になるだろう。埋め立て地の端っこという最悪に近い立地だけあって、ボーっとしていてもお客さんは来てくれない。万博期間でどれだけ人が周辺に集まろうが、最寄りのコスモスクエア駅からは5分程度歩かないといけない。

だから開業前から観光アプリなどと連携して売り込みをおこなったり、海外の観光メディアに取材してもらったり、旅行系のインフルエンサーに体験してもらってレビューを貰ったり、大阪市と連携してインバウンド向けの広告を各所に打つなど、思いつく限りの広告宣伝を行い、認知を広げることが大事になるだろう。

 

②は分からん

写真では分かりにくいがあまり広くはない

②は空き土地である。こちらは大阪市の市有地であり、事業者に約200万円で賃貸されると思われる。アンチエイジングやメディカルコンシェルジュセンターを誘致すると書かれており、恐らく万博で上手くいった事例を導入しようと考えているのではないか。

ただし、関係各所と協議後する旨から分かる通り、詳細を詰めている最中なのだろうと思われる。

私の意見としては、①のドームとシナジーを生みやすいサービスが良いのではないかと考えている。ドームはインバウンド向けのエンタメであるが、②は医療ツーリズムであり、あまりシナジーが生まれないような感じがする。

また、医療ツーリズムをやるならもっと広いスペースを確保し、多数のテナントが入れるような大規模な施設を作った方が良いと思った。少数の店舗が入居するだけでは集客力が弱い気がする。

シナジーを生みやすい事業例としては、①と類似するサービスとして、よりVRに特化したショーを行えるような演劇場をもう一つ作るとか。

また詳細が出ていないので、詳細な内容が分かってから議論しようと思う。

 

緑のエリアは何もしないことが正解。雑草抜きとごみ拾いだけやる

清々しいほど何もない

緑のエリアは大阪市との協議の上で決定となっており、用途は未定である。この土地も大阪市の市有地であると思われる。①や②の施設の収益によってこの土地を管理・運営しつつ、可能であれば活性化できるような施策を考えて欲しいということなのだろう。

 

空から見ると人がいない理由がよく分かる

私はこの周辺を見てきたが、人がほとんどいなかった。釣り人やコービーを飲んでボーっとしているおっさんぐらい。もともと人工島の端っこという立地で人が集まりにくいし、背後にはメガソーラー(一時期上海電力がどうのこうので話題になったところ)があって袋小路の構造になっている。恐らく提案した業者としても使いみちが見当たらないため、活性化方法は保留ということになったのだろう。

当アカウントとしては、草木の整備など最低限の管理だけを行い、余計なことをしないことが現状の正解だと考える。周辺に釣りを楽しんでる人がいたので簡易的な釣り場にするか、釣り具レンタルショップを置くこと等を考えたが、であれば他の場所で釣りをするし、釣りのレンタルショップにしても人がいない場所なので厳しい。プレミアムジュエリーから流れてくる客も客数が少ないので経営的に成り立たない。

他には周辺でコスプレイベントがちょくちょく開催されているみたいなのでコスプレとどう絡めるか考えたが、定期的に収益を上げるのは難しいのでやめた。

将来的には周辺の開発が進んで新しい利用方法が生まれてくる可能性はあるが、現状は収益化は難しく、草むしりやゴミ拾いだけをやっておいて最低限の管理費で済ますのが最適解だ。

後ろ向きな活用法ではあるが、何か活用しようとして売店を設置したり余計なことをすると赤字が拡大するだけだと思う。価値を生みにくい空き地をどうするか考えるより、本体(ドーム)の成功に経営資源を集中させるのが吉だ。

 

最後に

今回は仕事の関係でたまたま南港に行くことがあり、ついでに行ってみた次第である。

閉館から時間が経っているせいもあるのだろうか、床のタイルがはがれていたり、扉もボロボロになっていたりと、時空館周辺の雰囲気は悲壮感が漂っており、何というか昔の大阪に戻ったような気分になった。

大阪は海洋を通じた異国との交流で育ってきた都市であった。古くは東アジアとの交流で栄えた王都として、中世には海外貿易の拠点都市として、近世には全国各地の物産が集積する経済都市として、近代以降は紡績を中心とする工業都市として栄えた。海の時空館に来ると、そういう海洋都市としての大阪の営みそのものが否定されているような感覚がするのである。

これからはインバウンドが大阪の産業の一つの軸となるだろう。海の時空館はそのような大阪の象徴として再出航してほしい。

コメント