【大阪都構想】新庁舎建設費(最大637億円)は大幅に削減できる可能性がある

政治行政(都構想など)

建設費用を実質0円にした豊島区のスキーム(藤田委員提出資料)

前回は「反都構想派の意見に反論をした記事」を書いた。

今回もその続きで、都構想の新庁舎の建設費用について考えてみたい。

 

新庁舎の建設費用は最大637億円?

大阪都構想が実現すると、4つの特別区が設置されることになる。

一つは港区や淀川区などを含んだ「東西区」、一つは梅田や鶴見区を含んだ「北区」、一つは大阪府庁や難波などを含んだ「中央区」、最後は天王寺を含んだ「南区」だ。

名称は案段階なので、今後の議論で変わっていくと思われる。

 

大阪都構想の特別区は”中核市モドキ”と呼ばれる。

これまでの区はあくまで大阪市の支店でしかなかったが、特別区になれば新しい市ができることになる。

大阪市の支店から人口が60万人程度の一つの市になるため、従来に比べて業務量も増え、必要な人員も増えてくる。

現在の大阪府市の試算(※1)によると、現状で9440人だった公務員数が、特別区になると4区合計で9840人、つまり400人増員することになる。

合理化ある程度行っても、職員数は増えるようだ。

 

またそれに加えて新しく会議室を設置したりなど、役所の規模を大きくする必要も出てくる。

今回新庁舎の建設の話が出てきたのはそのためだ。

 

さて、庁舎の運用方法には2種類あって、一つは総合庁舎案ともう一つは官房庁舎案だ。

総合庁舎案は役所の機能を一カ所、もしくは近隣エリアに集約する方法で、官房庁舎案とは官房機能(危機管理室や財務部など重要な役所組織)を対象とした庁舎を作る案だ。

 

必要な費用としては・・・

総合庁舎案:637億円

官房庁舎案:379億円

 

一般に新・区役所として私たちがイメージするのは総合庁舎案であり、その場合だと最大で庁舎の建て替えや新設に637億円必要になると試算された。

都構想反対派にとっては格好のネタであり、都構想=初期費用が高くやめるべきという主張が成り立つことになる。

でも、この試算は本当に最適なのだろうか?

 

役所の上にマンションを建てれば、コストを大幅に削減できる

ここで出てくるのが不動産ディベロッパー的な発想だ。

確かに新庁舎を建設し、役所のためにしか使用しなければコストがかかるばかりで、数百億円の赤字になることは確実だろう。

 

しかし、例えば役所の上にタワーマンションを建設し、分譲や賃貸によって収入を得られるようにすればどうなるだろうか?

それには東京の豊島区で既に先例がある。

 

参考:第15回大都市制度(特別区設置)協議会(藤田委員提出資料)

上は東京都豊島区(”としま”と呼ぶ)の区役所のイメージ図である。

図で説明がある通り、下層階(1、3~9階)に区役所が入居し、その上に賃貸マンションが入っている。

豊島区はこれを”実質ゼロ円”で作ったと言われている。

 

参考:同上

さらに上の画像は、東京都豊島区の新庁舎建設のスキームを示している。

間に民間業者を挟んで運営させたり(PFI)といった専門的なスキームはあるものの、収益構造としては上のマンションの収益で建設費や庁舎の入居費用をペイしていると考えればよい。

豊島区はこの上のマンションの賃貸収入を活用することで、庁舎の建設費や入居費用を”0円”にすることができた。

同じ方法(役所の上にオフィスやマンションを入れてその賃料収入で建設費をペイする)は、大阪都構想でも実践できるのではないだろうか??.

 

因みに、オフィスではなくマンションである理由

あくまで推測でしかないが、どうしてオフィスではなくマンションであったのだろうか?

 

一つは周辺の需要に合わせたという点があるだろう。

つまり、豊島区役所はターミナル駅である池袋駅から少し離れた場所にあり、オフィスより住宅の方がニーズがあったのかもしれない。

 

他に考えられるとすれば、オフィスとマンションでは区が獲得できる税金額が違ってくるからだろう。

大阪都構想と同じく、東京都と特別区の間には「財政調整制度」という都と区で税金を分配するシステムがある。

要は、東京都は特別区の代わりに消防や水道事業、インフラ整備を行っており、その財源として特別区から発生した税金(法人住民税、固定資産税、特別土地保有税)の一部(約45%)を頂戴する形をとっている。

※この制度が一部の反対派にとっては「大阪府に税金を奪われる」と叫ぶ理由となっています。

 

仮にオフィスにすれば、支払う税金は法人住民税であり、東京都に45%を持っていかれてしまう。

一方でマンションにすれば、発生するのは個人の市町村住民税であり、こちらは特別区の固有財源としてすべて手元に入る。

仮に、企業がオフィスとして入居し、100万円の法人住民税を払っても区の手元には55万円しか残らないが、マンションの住民が支払った100万円の住民税(市町村住民税)は全て豊島区の手元に入ることになる。

因みに大阪の場合も制度は東京と同じだが、特別区に全体の約80%の財源を残すなど、東京都のほどピンハネされていない。大阪府の方がその意味では”優しい”のだ。

 

大阪市が抱え込んでいる広大な市有地を活かすべし

ネットでは「ゼロ円で驚きの庁舎!」といった論調で絶賛する記事が多かったが、不動産開発の分野では珍しいことではない。

ただ、そのような不動産開発を実現するには、自己所有の土地が必要だ。区役所であれば、税金や借地賃料がかからない市有地(区有地)である。

しかし幸いなことに、大阪市はとんでもない面積の土地(市有地)を保有している。

 

2012年時点で大阪市は市内の約26%を保有しており(※2)、それから数年たって一部売却しているものの、それでも相当数保有しているとみられる。

関西経済同友会によれば、土地の台帳価格は約6兆円になるとされている。

一時期は財政状況の危機が叫ばれていた大阪市であるが、十分すぎるほど土地を持っているのだ。

 

例えば第一区(淀川区や港区など含む区)。この新本庁舎は十三駅近くの淀川区に作られる予定だ。

淀川区役所は最近建設されたものであるが、特別区を設置するならこれだけでは不十分なので、(勿体ない話だが)また近隣に別庁舎を建てる必要が出てくる。

さて、十三駅徒歩2分のところに旧淀川区役所があり、数年間手つかずで放置されている。

ここなら梅田から5分&駅チカというメリットを活かし、高層マンションを建てて賃料収入を得ることは可能だろう。

 

現状本庁舎になる予定の区役所周辺は高層ビル(タワーマンション)を建ててもペイしなさそうなところも多いので、例えば駅周辺の市有地を探す、もしくは市有地と民間の土地を組み合わせて、複合型の庁舎を建設すべきだ。

そうすれば最大で637億円とも推定される建設費は大幅に削減できるだろうし、立地によっては逆に黒字にすらできるかもしれない。

市所有の不動産をどのように有効活用するか考えて欲しい。

 

※1:第14回大都市制度(特別区設置)協議会資料、組織体制(部局別職員数)

※2:公共経営の再構築 大阪から日本を変える(上山信一)

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