大阪都構想の心臓部分である税制「都区財政調整制度」とは

政治行政(都構想など)

都区財政調整制度のイメージ図(筆者作成)

都構想を議論するときに出てくる”特別区”。

特別区とは大阪市を再編したときに設置される市町村のようなもので、合計で4つ設置される。

 

ここで発生する疑問があるとしたら、おそらくどうして”特別区”を設置するのかという点だ。

巨大な大阪市を分割してより身近な住民サービスを実現するのであれば、小さな市(中核市)を複数作った方が良いのではないか?と。

 

しかし各市がバラバラになって独立した場合、それぞれの市町村の間で圧倒的な格差が生じてしまう。

企業の本社や支社など中枢機能が多く立地する北区や中央区が多額の税収を独り占めにし、逆に西成区のような生活保護支給が多い自治体は財政的に苦労するだろう。

 

今回紹介する「都区財政調整制度」は、そういった地域間での税収による格差をある程度まで縮小できる制度だ。

因みにこの制度は現在の東京都で実践されており、運用経験が長いこともあって信頼性が高い。

記事の内容を要約!

・旧大阪市で発生した税収の一部は、特別区4区と大阪府に約8:2の比率で分配される

・さらに特別区ごとに異なる財政状況を考慮しつつ、”そこそこ平等に”分配される(財政調整制度)

・特別区用と大阪府用の財源を分けて管理するなど、大阪都制度は東京都制度より透明性が高い設計となっている

① 大阪府と特別区に財源を分ける

財政調整制度のイメージ図(筆者作成)

現在の時点で考えられている都構想の設計では、大阪府市が抱える2931個の業務(8788億円)のうち、住民に近い行政サービスである2503個の業務を特別区が担い、それ以外の約430の業務を大阪府に移管する予定だ。

全体の財源は8788億円で業務に対応して財源を分担すると、特別区の業務には6766億円、大阪府の428の業務には2065億円必要になる。

 

しかし、法律(地方財政制度)に則って財源を移行すると、大阪府には639億円しか財源が移動されず、財源不足が発生する。

つまり、仕事内容に応じて予算を分けた結果、大阪府は予算不足になり、一方で特別区は財源過剰になる。

そのような財源上の過不足を解決する制度が「都区財政調整制度」である。先ほども述べた通り、すでに東京都ではこの制度が運用されている。

 

今回大阪都構想で採用される財政調整制度では、大阪市の実情に合わせてカスタマイズされる予定だ。

下ではその制度について詳しく見ていくこととする。

 

大阪府と特別区の分配比率は20:80

財政調整制度では、大阪市域から集めた財源を一度大阪府が集め、それぞれの特別区の状況に応じて分配し、その内の一部を大阪府が利用する。

現在想定されている比率は特別区が80%で、大阪府が20%だ。

東京都では特別区が55%、都が45%の割合で分けられることを考えれば、大阪都構想は特別区に財源を割いた制度であると言える。

※東京は財政に余裕があり、この分担割合でも十分にやっていける。

特別区の税収は別のお財布で計算するなど、東京より透明性が高い

大阪都制度の予算(府と特別区が別々のお財布になっている)

特別区から発生した税収約4000億円(固定資産税、法人住民税など)は、一度全額が大阪府が回収する。

その後、府と特別区に20:80の割合で分配する。

ただ、特別区とすれば自分たちの血税であるので、どのように分けられているのか不正なく計算してほしいと思うはずだ。

新しい大阪都制度では、会計の透明性を高めるために、大阪府とは別に財布(特別会計)を作り、そこで府と特別区の分配率を計算し、分配している。.

 

東京都制度の予算(東京都と特別区の予算が一緒に計算されている)

一方の東京都では、財政調整金(=特別区の予算)も一般会計の中に一度いっしょこたにして計算している。

この点は、橋下徹・元大阪市長が「大阪都構想は東京都制度を一部修正してバージョンアップしたものだ」と言っている一つだ。

まあ小さなことではあるのだが、税金を払う区民にとっては自分たちの税金であるのだから、不正がないようにしっかり計算してほしいと思うのが普通だろう。

② 財政調整金(約4000億円)を4つの特別区に分配する

現在、大阪維新の会によって提案されている特別区の区割りは、北区と中央区、南区、東西区の4つだ。

因みにこれからキタやミナミに次いで新しい大阪の中心地となることを期待されている夢洲は、此花区、つまり東西区に編入される予定だ。

貧乏な地域と金持ちな地域で偏りが出ないよう、北区には梅田が、中央区にはなんばが、南区には天王寺(あべの)が、東西区には夢洲などベイエリアが入っている。

さて話が少し逸れたので本題に戻る。

 

各特別区に予算を分配しているイメージ図(金額は実際とは違います)

大阪市の収益(税収)は梅田がある北区やなんばがある中央区(ややこしいが、こちらは現在の区分)で多い。

それらの地区で得た税収(固定資産税や法人区民税)を、”適度”に分配する必要がある。

※2020年7月時点では、区名は「北区」「天王寺区」「中央区」「淀川区」になる予定です。

 

つまり、取り過ぎるとそれらの地域から不満が出るし、逆に何もしないと裕福な地域と貧乏な地域で大きな格差が発生してしまう。

 

画像引用:05_zaiseityousei.pdf(大阪市HPより)

生活保護率の高さや都市機能の状況などを検討しつつ考えられ、現在の想定では、一人当たりの税収入の格差が1.2倍程度になるよう設計されている。

例えば一番裕福な第一区では一人当たり24万円であり、一番貧乏な第四区でも一人当たり20万円程度になるように設計されている。

 

一方、東京都では世田谷区が一人当たりの税収が約20万円である一方、港区が約38万円(1.8倍の格差がある)、大企業が集積して人口が少ない千代田区に至っては65万円(3倍以上の格差)となっており、大阪市の財政調整制度はかなり平等に設計されている。

これも東京都制度の現状を知った上で制度設計ができたためであり、後だしじゃんけんのメリットだ。

 

なお、記事は大阪市のHP(PDF)を情報源として作成しております。ご参考までに。

 

追記

【2020年7月12日追記】

財政調整制度は地味な制度だが、特別区の財源を左右するものなので大阪都構想の肝ともいえる。

また、一度運用してからだと制度変更は難しいので、今キッチリ決めておくことが肝心である。

 

仮に財源を平等にしすぎると、梅田などがあって税収に余裕がある北区からは取られ損だということで批判が来るだろうし、中心区に求められる富裕層・エリート・都市住民向けの政策ができなくなってしまう。

今後大阪がグローバル競争を勝ち抜いていく上で、そのような住民に特化したサービスはますます重要になるだろう。

しかし一方、財源に格差をつけすぎると、余裕がない特別区では財源不足に苦しむことになるし、今後の高齢化社会を考慮すると、手厚く分配しておきたい主張も理解できる。

 

そのバランスを取った設計は難しく、特別区間で大きな格差がある東京と違い、今回、大阪都構想では格差を縮める方向性になったと思われる。【追記完】

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