あらゆる部分で負担を強いられている大阪市

政治行政(都構想など)

大阪に住んでいる人はこれまで、大阪市と大阪府の違いを意識することはほとんどなかった。

むしろ北摂や芦屋といったお金持ちな地域に住む方がステータスで、市内が必ずしも優れているというイメージはなく、だからといって都心を馬鹿にする風潮は微塵もない。

少なくとも市民感情においては、府と市の間に境界線などなかった。

一方、東京では23区が圧倒的に裕福で(港区や千代田区、中央区など)、多摩を中心とする東京西部は端的にいって下に見られていた。ザックリいえば、東京23区が”上”でそれ以外が”下”だったのだ。

 

さて、大阪都構想の議論が深まっていくにつれて、府と市の境界を意識しない大阪人でさえ、大阪市と大阪府を分けて捉え始めるようになったと感じる。

さて、都構想に反対する人々の主な主張は、都構想によって大阪市が大阪府に吸収され、権限も税金もどちらも府に吸い取られて”損”をすることだ

実際はどうなのだろうか?大阪市は税金と権限を盗まれるだけで損するのだろうか?

今回は大阪市の負担について考えようと思う。

 

昼間に人口が激増する大阪市(夜:270万⇒昼:355万人)

ご存知の通り大阪市は、梅田や中之島、難波、天王寺など大阪の主要エリアを擁する都市であり、昼間は通勤や通学のため、多数の人が市外から流入する。

昼間の人口を夜間の人口(=実際に住んでいる人)で割ったものを昼夜人口比率といい、1を超えると仕事や学校のために流入する人が多い、つまりその地域の中心的役割を担っていると言える。

大阪の昼夜人口比率は1.32である。これは東京23区を抜いて、全国21大都市の中で一番高い数値を記録している。

夜間人口は269.1万 であるから、昼間人口は354.3万人に膨れ上がる。昼と夜の人口差はおよそ80万人近くにまで達する。(参考:平成27年国勢調査<大阪市の昼間人口>(大阪市)

 

過度な財政負担&入ってこない税金

これはつまり・・・大阪市が他の市町村に住んでいる人々に対しても公共サービスを提供せねばならないことを意味し、市の財政的負担が増加することにつながる。

例えば、道路の建設や修繕、図書館の維持管理、市立大学の運営、病院の維持管理、など市への過度な負担は多岐にわたる。

大阪市はインフラ整備をするとき、人口より90万人多い需要に耐えられる設備を作らねばならないのだ。これは端的にいって過度な負担だと思う。

 

さらに言えば、税制面でも問題がある。住民税だ。ご承知の通り、住民税は住民票が置かれる地域で課税される。

つまり、昼間大阪市に仕事をしに来て夜は市外に帰っていく人々(筆者も含む!)に対して、市は公共財を無料で使わせているにもかかわらず、住民税を徴収できない。

大阪市は市外から仕事のために昼間やってくる人々のために公共サービスの過度な拡充を強いられ、その上、住民税すら徴税することができないのだ。

 

でも大阪市は大企業の本社がたくさん立地していて(以前より減ったが、2016年時点でも資本金100億超の大企業は133社ある)、その税金で潤っているのでは?

という疑問が湧いてくるだろう。実は現在の税制では、大阪市内に本社を置く企業から発生した税金は大半が国税として取られ、その残りの多くも大阪府が徴収しているのだ。

 

大阪市が貰えるのは法人市民税(1,263億)。大阪府(2,100億)の半分程度。

大阪市役所。荘厳な作りにちょっと感動(笑)

東京一極集中でかなりの数の企業が関東圏に流出してしまった大阪だが、それでも、2016年時点でいわゆる”大企業”の本社は133社ある。

もちろん研究機関など実質的な本社機能を東京に移し、本社登記だけを意地でもって大阪に残している企業も多いので、実際はそれより少ない。

法人税の一覧

大阪市 法人市民税 1,263億円(平成30年度)
大阪府 法人府民税+法人事業税 726億円+3443億円=4,169億円(平成30年度)
国(国税) 法人税 1兆598億円(※平成20年)
合計 1兆6,030億円

大阪府域から発生する1兆6,030億円のうち、大阪府内に残るのは5,432億円。一部は地方交付税として戻ってくるが、元を取ることは当然できない。

参考:平成30年度 グラフで見る府税(大阪府)参考:大都市の税財政における現状と課題(大阪市、PDF)

 

まず一言いいたいのは、国税がとち狂って高い点。平成20年のデータであり約10年前だが、総額はそんなに変化していない。

大阪で発生する法人関係の税のうち7割近い税金が、国税として霞が関に流れていくのだ。そしてそのお金の一部は東京が得をする方法で分配されるか、また一部は地方の土建屋に流れて自民党の組織票になった。

さて、この国税の中抜きのひどさが大阪衰退の一因だと筆者は思うが、今回は目的が違うので議論しない。また今度書きます。

 

上のデータを見ればわかる通り、大企業の大半は大阪市に拠点を置くが、その内で市が貰えるのは1,263億円だけ。法人3税のうちで全体の10%未満だ。

一方大阪府は法人関係の二税を合計して4,169億円貰える(法人事業税がデカい)。

もちろん大阪市外にも企業は立地しているから、全てが大阪市内から発生しているわけではないが、その4000億円のうちかなりの割合が大阪市由来である。仮にその半額(2100億円)が市内で発生したとしても、大阪市より大阪府に流れる金額が多い。

 

府は大阪市内に本社を置く大企業から発生した税金を使って、高度経済成長期には、郊外のニュータウン開発を積極的に行った。当時の大阪は大企業城下町であったから、税収は今と比べ物にならなかったであろう。

市内の開発に口を出せない大阪府は、郊外の開発に力を入れてきた事実は「「大阪都構想で大阪市民が損をする」は本当だろうか」でも指摘した通りだ。

 

議論をまとめると、大阪市内にある企業から発生した税金についても、大半は国税として奪われ、一部は法人事業税として府に流れ、大阪市に残るのはそのうちの10%以下である。

しかし、大企業がたくさん立地しているからといって、大阪市が儲かっているかと問われればそうではない。

 

都構想は大阪市内をもっと発展させて大阪全体を元気にする構想

最後に加筆するなら、上のタイトルの通りである。

大阪府はこれまでずっと大阪市内の開発について口を出せず、だからこそ市外(郊外)の開発に力を入れてきた。

ただ、これからは大阪全体の設計図を考え、実行する組織が必要である。府市がバラバラだと大阪全体の戦略が前に進まないから、その処方箋として大阪都構想が出てきた。

 

一般に大阪市の税金が大阪府に盗まれて・・・のような論調が都構想反対派の間で目立っているが、都構想はその逆。

府がこれまでできなかった大阪市の開発(例えば大阪市咲州区の夢洲、難波筋線など)を行い、府全体を成長させようとしている。

詳しくは「「大阪都構想で大阪市民が損をする」は本当だろうか」でも書いているので、こちらも参考にしてほしい。

以上です。

コメント

  1. 税に携わる公務員 より:

    法人税収で考えればそうですが、市町村には「固定資産税・都市計画税」があり、統計を見れば、大阪市で3000億円を超える税収があります。
    もちろん、個人が納めているものもありますが、大阪市なら民間ビル、店舗、工場などを所有する法人がその多くを納めていると考えて良いでしょう。
    しかも、法人税収ほど景気の影響を受けることなく、毎年、安定的に入ってきます。

    そもそも固定資産税には、応益負担の原則という考えがあり、そこに人が住み、事業を営むことによって、市町村は、様々な公共サービス(生活インフラの整備をはじめ、ごみ収集など)の提供が必要になるので、その固定資産の所有者に負担してもらうというものです。

    したがって、昼間、大阪市に働きに来るサラリーマンやレジャーで訪れる方々に対して、大阪市が提供する公共サービスは、サラリーマンが勤める会社が、レジャーで訪れる店舗が、毎年、固定資産税として負担しているとも考えるべきだと思います。

    したがって、納税者からの負託を受けた大阪市は、昼間流入人口を受け入れるための都市インフラの整備費用を負担するのは義務であり、どの程度が適正かはあると思いますが、過度な財政負担というのは少し違うかなと思います。
    その点は、同じ政令市でも、昼夜間人口比率の低いベットタウンの横浜市との違いだと思います。
    長文失礼しました。

    • 大阪の未来構想 大阪の未来構想 より:

      最近は”過度な負担”かどうか、自分の中でも意見が変わりつつあります。

      固定資産税や都市計画税は周辺市から通勤・通学やレジャーに来る人々が間接的に負担していると考えられると思います。
      また、法人市民税も同様で、形式上は大阪市域から発生した税収ですが、その一部を割合を間接負担しているのは周辺から通勤するサラリーマンです。

      一方で所得水準の高い層が北摂(吹田、池田、豊中、芦屋など)に住んでおり、その住民税が捕捉できていないことも考える必要があります。
      そのような議論を含めて、まだ結論が出ていないところです。