中央リニア開通で大阪から東京へ流出するストロー効果は発生するか?

2027年にも東京~名古屋間の開通が予定されているリニア(中央新幹線)。

東京や名古屋、大阪という三大都市圏を高速リニア鉄道によってわずか1時間で結ぶという世界で類を見ないビッグプロジェクトだ。

大阪にいる人間からすれば、新幹線でも東京までは最低2時間半かかり、日帰りで行くには少し時間がかかり過ぎる印象がある。

でもリニアが開通して東京まで片道1時間ちょっとになれば、本格的に日帰り圏内となる。

 

名古屋に住みつつ大阪に通勤する人も出てくるだろうし、本社や支社の置き方だって変わってくるだろう。

いろいろ想像が膨らんで楽しくなる(笑)

 

さて、リニアや新幹線について考えるとき、よく挙げられるキーワードに「ストロー効果」がある。

ストロー効果とはザックリいえば、小都市が大都市とつながることで人や物、金が大都市に吸い取られてしまう現象を指す。

これは東京と地方都市の関係に限ったことではなく、東京や名古屋と大阪といった大都市間でも発生し得ることだ。

 

実際、中央リニアの開業が8年後(2027年)に差し迫った名古屋では期待感が高まる一方で、懸念の声もある。

つまり、リニア開通でアクセスが良くなって経済的プレゼンスを高める可能性もあれば、ヒトモノカネが東京に吸い取られかねないと危惧している人もいる。

今回はリニアの開通によって、大阪はストロー効果の影響を受けるのかどうか考えてみる。

 

ストロー効果が発生するか否かは、その都市の魅力度で決まる

そもそもストロー効果をめぐる議論は色々ある。

一つには、ストロー効果などは存在せず、新幹線と地方が繋がれば、どちらの都市も好影響を受けるという主張だ。

 

筆者はストロー効果はあるだろうと考えている。

ただそれと同時に、ストロー効果は発生しない時もあると思う。

 

ストロー効果が起きるのは、心理的な距離が近づくことが原因だ。

例えば新しい超高速鉄道ができて、東京と世界的大都市のニューヨークが3時間で結ばれるようになったとする(あり得ないけれど!)。

日帰りで行ける所要時間となったことで、日本人のNYに対する心理的な距離がグッと縮まることは容易に想像がつくだろう。

日本からNYへの観光客は急増するだろうし、その逆も増えると思う。

そして心理的な距離が縮まれば、これまで頭の片隅にすらなかったNYに住むという選択肢が現実味を帯びてくる。

 

世界的な有名人が多数住み、世界の文化の中心地であるNYは都市として高い魅力を発する。

両者が片道3時間の高速鉄道で結ばれれば、恐らく東京は人や物が吸い上げられ、競争に負ける可能性が高い。

 

ここで私が言いたいのは、ストロー効果が発生するか否かはその都市が持つ”魅力”に依存していることだ。

さらに踏み込むならば、魅力がある都市は人を吸い上げることができ、逆に魅力が弱い都市は人が吸い上げられるということ。

魅力という言葉はかなり曖昧だが、例えば京都であれば歴史的な権威があるだろうし、東京には日本の政治経済文化の中心地として発展してきた。

大阪もお笑いや道頓堀をはじめとした独特のコンテンツ力を持っている。

 

さらに現実的な魅力としては、給料水準や雇用の多さなども重要になってくる。

その町に住もうと思っても、仕事がなければ住めないからだ。

 

2037年。大阪はどうなるだろうか?

2037年はかなり先だが、東京~名古屋間で27年に開通していた中央リニアが大阪まで延伸になる年だ。

もともとは工事を主導するJR東海は2040年以降に完成する計画だったが、関西財界や国の働き掛けもあり、国がJR東海に3兆円規模の財政投融資を行ったことで、開業が最大で8年前倒しになった。

それでも東京~名古屋開通から10年も経つことになる。その時代の大阪はどうなるのだろうか?

 

都市の魅力を高めつつある大阪。ストロー効果は心配ないと思う

先ほども指摘した通り、ストロー効果が起きるかどうかはその都市に魅力があるかどうかで決まるはずだ。

大阪の場合はどうだろうか?

 

大阪の政治は現在、絶賛改革進行中である。

維新の会は例えばメトロの民営化や万博誘致、役所の意識改善など数多くの改革を進めてきた。

一般に改革はすぐに効果が現れない。改革が大きければ大きいほど成果として見えるようになるまでには時間が必要だ。最低でも数年、大きいプロジェクトだと数十年かかるだろう。

 

現在大阪ではうめきた2期(2024年先行開業)やなにわ筋線の計画工事、IRの誘致、2025年の大阪・関西万博、あいりん地域の振興などなど数多くのプロジェクトが進行中である。

これらのプロジェクトに呼応して、例えばメトロやJRが万博とIRの島「夢洲」へ延伸計画を発表するなど、民間企業も動きを活発化させている。

 

さらに大阪は強いコンテンツ力が武器であり、インバウンドが好調だ。豪雨や関空水没の影響を受ける前、2018年の4~6月期は訪問率が41.8%と首都東京の41.6%を抜いて単独トップを記録した。

自然災害のダメージを受けながらも、速報値で訪問者数1142万人と昨年比103%だった。

外国人観光客が多いのは、中国を中心とするアジア諸国で中間層が増えていることや、維新の改革により関空がLCCの拠点になったこと、アジアに地理的に近いこと、、、などなど様々な要因があるが、一番の根幹は大阪という都市自体に何かしらの魅力があったからだ。

大阪人ほど「大阪はなんもない」と低評価を下しがちだが、本当に何もないところには人は来ない。魅力があるから人は来るのだ。ザックリまとめるなら、大阪の強いコンテンツ力が彼らを惹きつけているのだろうう。

 

今後も大阪が確実に改革を進め、魅力を伸ばしていけば、リニアが開業しても目立ったストロー効果は発生しないだろう。

 

むしろストロー効果の危険性が高いのは名古屋

むしろ大阪よりもストロー効果の危険性が高いのは名古屋だと思う。

名古屋を中心とする愛知県の主力産業は製造業であり、これが名古屋圏の経済の強さである。また、関連産業の仕事があるという点で魅力の一つとなっている。

誰もが知っているトヨタ自動車の本社は豊田市にあり、部品工場などその関連産業が広く立地している。

 

ただ、中国などアジア諸国が製造業を伸ばしている状況で、日本の製造業は今後は厳しくなることが予想される。

また、自動運転化が進めば日本が得意とするハードウェアよりも、AIの頭脳部分となるソフトウェアが圧倒的に重要となる。

つまり今後、自動車製造においては自動車自体を作るメーカーではなく、AIといったソフトウェアを作る企業が主導権や収益源を握ることになる。

トヨタ自動車はそのことを誰よりも把握しているので、ウーバーに出資して提携を結んだり、自動運転技術の開発に多額の資金を投入している。

今はまだ企業体力も世界シェアも十分すぎるほどあるが、中国をはじめとする新興自動車メーカーやアメリカのGoogleやアップルといった巨大IT企業との競争に負ければ、会社ごと吹っ飛んでしまったり、IT企業の下請けメーカに堕ちてしまいかねない。

 

そのようなリスクがこれから大きくなっていく中で、名古屋の将来は良くも悪くも振れ幅が大きいと言わざるを得ない。

これから確実に伸びる新産業の観光業で成功しつつある大阪と比較すれば、名古屋の置かれている立ち位置がかなり危険なものだと思われる。

 

ただ個人的には名古屋には頑張ってほしい。

むしろ名古屋が頑張って東京からヒトとカネを吸い上げるぐらいではないと地方創生は進まないからだ。

 

ストロー効果を撥ね退けるには「魅力」が大切だ

結局のところ、ストロー効果で人や金、物が大都市(東京)に奪われてしまうのは、こちらに魅力がないからだ。

その地域に魅力があれば、逆に吸い寄せることだって可能だ。

 

魅力といえばかなり漠然としているが、人によっては都会的な刺激がある街だろうし、人によっては高い給料と雇用が保証されている街だろうし、人によっては交通の便が良い街かもしれない。

今よりも多くの人が「魅力的だ」と思える大阪を作ることができれば、ストロー効果の心配はないと思う。

それは全国以上のペースで急増している外国人観光客数という、外からの客観的な視点を踏まえれば、容易に理解できると思う。

記事は以上です。

コメント