大学は若くて優秀な人材を集める装置。大阪は公立大学をどう使うべきか?

大阪の未来構想

府大と市大をどう使うか?が本記事のテーマです

2019年4月に経営統合された大阪府立大学(通称:府大)と大阪市立大学(通称:市大)。統合後は公立大学法人大阪としてスタートを切ることになる。

少し前の記事でも触れたが、名称を含めて名実ともに統合されるのは数年後で、それまでは現在と同様に府大と市大それぞれ別に受験生を募集する。

今回の記事のテーマはこの公立大学法人大阪である。

 

前回の記事では、大阪府主催の副首都推進本部第10回に掲載されている情報をもとに、統合後の大学の方針について説明した。

 

私は大学必要論者であるのだが、人によっては大阪府や大阪市が大学を持つ必要性を疑う人もいたり、そもそも大学の存在自体を否定する人すらいる。

大学不要論は議論が逸れてしまうので今はとりあえず置いといて、府大や市大といった公立大学の存在意義について考えていきたい。

存在意義は様々あるが、今回はその一つを指摘していこうと思う。

記事の内容を要約!

・大学は若くて優秀な人材を地方から集客できる場所である。

・府大も市大も関西出身者が全体の80%を、大阪出身者が全体の50%を、それぞれ占める関西ローカル大学だ。

・授業料の無償化は大阪府民に限定されているが、それだと大阪ローカル化が進んでしまう。無償化は出身都道府県に関係なく行うべき。

大学は若い人材を集客する装置である

大学の存在意義の一つは、若くて優秀な人材を集客できる装置であるという点だ。

確かに人格者を作る教育だどうのこうの理由はあるだろうが、大都市にとって得なことという観点では間違っていないと思う。

 

地方では一般に高校を卒業すれば地元の企業で働き始めるか、もしくは東京や大阪といった大都市の大学に進学する学生が多い。

それはそれでドラマのワンシーンにありがちな光景で、学生時代を思い出させる感動的なシーンではあるが、地方と大都市の損得という観点から見ると全く違った光景が見えてくる。

 

せっかく育った若者が都心の大学に流出することは、地方にとっては明らかに経済的損失である。

人生で最も金がかかるのが幼少期であり、お金をかけて育てたと思ったら出て行かれる。

子供の将来を考えればそれが最適だろうが、地元にとっては若い働き手を失うことを意味するので”損失”である。

 

一方、大阪や東京といった大都市にとっては、金も掛けてないのに勝手に優秀で若い人間がやってくる。

これは説明するまでもなく、大都市にとってはまる得である。

 

地方から都市部にやって来る若い学生達が、大都市の発展・成長を支えるエネルギーである。

日本各地から若くて優秀な人材が大学生としてやってきて、彼らがそのままその地域で就職をする。

定職につけば税金を払うし、お金も使うので地域経済に貢献する。

 

関西では例えば同志社大学や京都大学といった全国に知名度がある大学は、他府県から入学する学生の割合が高く、集客装置としての機能を果たしている。

実際、彼らは関西ではJR西日本や関西の大企業、大阪府庁や市役所のエリート公務員となって関西経済を支えている。

 

一方、今回テーマとしている大阪の公立大学、つまり府大や市大はどうなのだろうか?

他府県(特に関西圏以外)から優秀な人材を集められているのだろうか?

 

府大も市大も・・・大阪のローカル大学と化している

まずは府大の地域別・都道府県別入学者数を見てほしい。

少し古いデータ(2012年度)しか見つからなかったのでこちらを使っているが、現在と大きな変化はない。

 

大阪府立大学・地域別入学者数(2012年度)

上のグラフを見ればわかる通り、関西の高校を卒業した学生が全体の約80%を占めている。

キャンパスで呼びかけて集まった10人学生のうち、8人は関西出身の学生なのだ。

残念ながら、府大は日本や世界に開かれた大学というより、関西ローカル大学だと言える。

 

大阪府立大学・関西圏の都道府県別内訳(2012年度)

そしてさらに、関西圏の内訳を見てみると、その内の半数以上である55%が大阪府出身だ。

大阪府の高校出身者を計算してみると、府大の学生全体の約43%が大阪の高校出身だということになる。

キャンパスで先ほど集まった学生10名のうち、8名は関西出身でさらに4~5名は大阪出身であることになる(笑)

府大は関西に開かれた大学というよりも、地元大阪に開かれた大阪ローカル大学であると言わざるを得ない。

※参考資料:データで見る公立大学法人 大阪府立大学(PDF)

 

今回は府大だけにしておくが、大阪市立大学も同様の状況であり、2010年度の入学者で90%近くが関西圏出身、関西の中では大阪府が60%弱を占めている。

つまり市大の全学生のうち、大阪府出身の学生は過半数(51%)を超えている計算になる。

 

データから導き出せるのは、府大と市大はどちらも関西&大阪の超ローカル大学になってしまっているということだ。

確かに、その地域に住む人々に教育を提供するという公立大が果たすべき本来の役割は果たせていると言えるかもしれない。

だが、先ほども書いた通り、大学は優秀な若い人材を集めてくる集客装置であり、これから世界との競争が厳しくなる中で、生き残っていくことは難しくなる。

ここは府大や市大の担当者もずっと頭を悩ませて考えている問題だと思うが、最近、大阪府知事の吉村氏からある方針が出たので、私もちょっと付け加えたい。

 

授業料無償化は大阪府民だけでいいのか?

大阪府の吉村府知事は2019年の5月に、大阪府民を対象として、大学の授業料無償化を拡大する方針を決めた。吉村知事の任期2023年までに実施する予定だ。

 

国が少し前に大学生の授業料無償化を決めたが、年収水準があまりに厳しく、その恩恵を受けられるのは一部の家庭に限られる。

例えば授業料が無償になるのは、夫婦と子供2人の4人家族の場合、年収が270万円以下というかなり厳しい基準だ。

そのため、大阪府では独自で基準所得を高く設定し、一般的な所得の家庭でも大学授業料が無償化できるようにしたいと考えているようだ。

 

しかし、大阪府出身学生への授業料無償化だけでは、単なる大阪のローカル公立大学に成り下がってしまうだけだ。

所得にかかわらず誰もが勉強できる環境を作り出すことも大切だが、外部から優秀な学生を呼び込んで大学を元気にすることも同じく大切だ。

 

やはり非関西圏や海外などから優秀な人材を集めるという意味で、家庭の所得水準に関わらず、高い学力を持つ学生には奨学金という形で授業料を無償化すべきである。

例えば、入試成績上位トップ1%の学生には、授業料免除に加えて、生活補助金(関西圏:1万/月、非関西圏:5万円/月)を給付するなどだ。

地方出身者でも学生寮をうまく使えば、バイトせずとも生活できるようになる。

ここまで奨学金制度を拡充すれば、お金はないが優秀な学生がポツポツ入ってくることになるだろう。

 

優秀な学生は将来の日本や関西、そして大阪の経済を支える柱となる。

彼らを他の地域に行かせてしまうのではなく、大阪に呼び寄せられるよう、経済支援することも重要ではないだろうか?

 

恐らく一部の人からは「大阪府の税金なのにどうして関西以外から来た関係ない学生のために使うの」などといった批判は来るだろうが、将来大阪経済に与える影響を考えれば、十分ペイできる投資だと思う。

つまりこれは無駄遣いではなく、将来の大阪への貢献を見越した投資なのである。

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