阪急「大阪空港連絡線」が大阪の都市戦略にとって重要である話

大阪の未来構想

梅田にドカドカと君臨する阪急オフィスビルタワー

最近関西では鉄道の新規路線ラッシュが続いておりアツい状況になっている。

2019年春に開業したおおさか東線や延伸が決まった大阪モノレール、なにわ筋線、中央線とゆめ咲線の夢洲延伸など、関西の人の流れを変える大きなプロジェクトがてんこ盛りだ。

 

阪急はその中でもなにわ筋線計画に足を突っ込んでいて、有名どころだと、JR大阪駅の北側にできる北梅田駅(仮)から十三を結ぶなにわ筋連絡線や十三から新大阪を結ぶ新大阪連絡線といった計画が上がっている。

実はそれ以外にも阪急はもう一つ延伸計画を出していて、それが大阪空港連絡線である。

 

新線を敷設する際、国から建設費用の補助を得ながら路線を伸ばすことになるが、補助金が出るゆえに、シミュレーション段階で十分に黒字を出さなければならない。

補助金を出せる目安は「40年以内に黒字化達成」であり、空港線は、現状では1日に約2.5万人の利用者を見込んでいるが、それでも達成できない可能性が高いと判断された。

ただし、鉄道路線というのは儲かるかどうかだけでなく、沿線住民やビジネス客の利便性向上といった利用者視点で考える必要がある。

今回議論する大阪空港連絡線には、単なる建設費や利用者数には現れてこない大阪の都市戦略としての重要性が隠されているのだ。.

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記事の内容を要約!

・阪急は梅田~大阪空港を電車一本で行ける新線(大阪空港連絡線)を計画しており、梅田と空港のアクセスが一気にアップする

・国際線は関空集中だが、水没のような事故は今後起こりえる。リスク分散のためにも伊丹に一部国際線を導入すべし

・イギリスは大阪空港に似た「超小回りが利く国際空港(シティ空港)」を持ち、ビジネス都市として強みがある

・大阪空港連絡線+国際線就航で、防災リスクを避け、空港アクセスが良いビジネス都市Osakaを目指してほしい

梅田~大阪(伊丹)空港が13分という衝撃

現在想定されている経路は、曽根駅から地下トンネルに入り地下線を通ってそのまま大阪空港に直通するもの。

上のマップで示される経路はあくまで筆者が仮で書いたものであり、実際のルートでない。

距離的には梅田~蛍池間(11.9km)とほとんど同じであり、この区間だと昼間の急行で13分。

 

距離を単純計算をすれば、伊丹空港への新線があれば梅田から伊丹空港まで最速約13分でアクセスできることになる。

これは梅田~関空間の所要時間と比べると恐ろしく早い(笑)

また、急行は蛍池の前に豊中で停車することも考慮し、空港線が十三~伊丹間をノンストップにできれば所要時間は1~2分程度削減できるかもしれない。

 

さて、福岡はよく住みやすいと言われるが、その一つに空港が近いことが挙げられる。

玄関口の博多駅から福岡空港までは地下鉄で約5分だ。伊丹の場合はさすがに福岡までには及ばなくとも、13分であれば十分近いといえよう。

 

関空集中はリスク。伊丹は将来的に国際線を設置するべし

関空第二ターミナル前に並ぶピーチ。各社は9月の台風で大打撃を受けた

今後、伊丹空港では国際線受け入れについて議論が進んでいくだろう。

2018年9月に台風の高潮によって関空が水没した事件で分かるように、全ての国際線を関空一本にしてしまうのはリスクが高すぎる。

実際、関空の営業が停止になった当時は、難波や黒門市場といった外国人に人気の観光スポットは閑古鳥が鳴いていた。経済に与える影響も普通ではない。

関西経済のリスク管理という点においても、伊丹空港の一部国際線を就航させることは合理的なのではないだろうか?

 

さらに言えば、都心(梅田や難波)からの距離的な問題もある。

関空は国際線を受け入れる巨大空港として十分すぎる役割を果たしているが、それでもやはり都心から遠すぎる。

なにわ筋線が開業して梅田と電車一本で繋がったとしても、最速で40分ちょっとかかる。

世界水準でいえばせめて直通で30分以下に抑えたいところだ。

 

伊丹は空港のギリギリまで住宅街があるため騒音問題などがあり、大型ジェットは飛ばせないだろうが、近距離の中小型ジェット機なら騒音もそれほどではないので十分飛ばせる。

今は航空機の性能が向上し騒音もマシになってきており、対策をすれば地元の理解も得やすいだろう。

 

大阪空港の理想的なイメージは「ロンドン・シティ空港」

筆者が考える理想的な伊丹空港の姿はイギリスの首都ロンドンにある「ロンドン・シティ空港」だ。

街の近くにありながら規模がこじんまりとして利用者はそれほど多くなく、使い勝手抜群の空港である。

 

イギリスのロンドンには複数の空港があり、一つはメイン空港であるヒースロー空港。もう一つは今回取り上げる「ロンドン・シティ空港(London City Airport、以後シティ空港と呼ぶ)」である。

外国人観光客の大半はヒースロー空港を利用するが、シティ空港も地味に外せない。

 

ヘンテコな形のビルも多い世界随一の金融街「シティ」(筆者撮影)

ロンドンの中心部にはシティオブロンドン(通称:シティ)という世界金融の一大拠点があり、シティからシティ空港まで地下鉄(DLR)で約20分だ。

ここで働く金融マンは出張の際、このシティ空港を使い、ササっとドイツやフランス、イタリアなどのヨーロッパ諸国に飛んでいく。

 

シティ空港は中心街から鉄道一本で約20分という近さにあり、空港も大きすぎず使いやすい。

シティ空港は便利で小回りが利く空港であり、この空港の存在がイギリスのビジネスにおけるプレゼンス獲得に貢献している。

このめちゃ便利な感覚は、伊丹空港を常用している人なら分かるのではないだろうか?

 

関西にも便利で小回りが利く(国際)空港が必要

リニューアル改装工事が進む伊丹空港南北ターミナル

伊丹も都心から近い位置にあり、規模もコンパクトに収まっているため、小回りが利いて使いやすいはずだ。

しかし、都心部(梅田周辺)エリアからのアクセスが悪く、現状では一度蛍池で乗り換えてモノレールに乗る必要がある。

 

蛍池までの所要時間は13分でも乗り換えや電車の待ち時間を含めると、10分以上ロスしてしまう。

今の伊丹空港の状況では乗り換えの時間的ロスや労力が大きく、利便性が高いとは言えない。

 

福岡空港しかり、ロンドンのシティ空港しかり、都心から近くて小さな空港は時短が大切なビジネス客にとっては大変重宝する。

伊丹空港もそのようなポテンシャルを十分に備えていると思う。

というよりも阪急の空港連絡線さえ完成してしまえば、所要時間は都心・梅田から13~15分。伊丹空港はシティ空港、もしくはそれを飛び越えていくコンパクト空港になりえる。

 

外資企業の進出や外国人企業家が増えてくる趨勢も見越して

今後、インバウンドがますます増加し、国際社会で「Osaka」が知れ渡ってくると、「Osaka」に進出してくる企業や大阪で起業する外国人が増えてくる。

なかなか普通に生活しているとイメージできないが、その効果は少しずつ現れてきている。

 

上は筆者のツイートだ。実際、インバウンド関連のビジネスを中心に大阪で起業する外国人が急増している。大阪の伸びは異常だ(笑)

東京と比べればまだまだ少ないが、今後も増加することは間違いないだろう。

 

大阪人こそ自覚していないが、大阪はマーケットととしての魅力が十分すぎるほどにある。

大阪府の人口は882.3万人(令和元年5月時点)で、あのグローバル巨大都市・香港の人口739.2万人(平成29年時点)より多い。

周辺には神戸や京都のような大都市も存在し、関西圏で見ると人口は2000万人をこえ、GDPでも世界の10本指に入る経済力を持つ。

また、東京に比べて地価が安い。

「Osaka」という市場の魅力を発見し、進出しようと考える企業が増えてくるのは当然といえば当然である。

 

外資系企業というと身構えてしまうかもしれないが、どんな企業であっても現地で大量の雇用を生むし、海外から大阪のイノベーションを引っ張るような人材を連れてきてくれる。

だから海外企業にはウェルカムでお迎えしなければならない。

 

そのとき、(仮に)都心の梅田から15分で電車1本でアクセスできて、ササっと香港や上海、シンガポールなど海外主要都市に飛べる空港を有していたとしたら、大阪は日本国内でもかなり競争力がある都市になる。

これはもはや阪急電鉄一社の損益どうのという問題ではなく、大阪の都市戦略に関わってくる問題だ。

 

単純な黒字化するか否かの水準で判断するのではなく、利便性向上やビジネスのプレゼンスアップという多角的な視点で考えることが重要だと思う。

【追記:2019年7月11日】大阪空港が改修中。2020年にリニューアルオープン予定だそうだ。

インバウンドが将来的に大阪で発揮するであろう意外な経済効果

『うめきた2期』が持つ圧倒的なポテンシャルとは

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コメント

  1. より:

    関空との共存が可能なだけの需要があればいいと思いますが、ちょっと心配です。
    それならば、梅田から関空へのアクセスを特急で、それを安く(ここ大事)提供出来るようにした方がいいんじゃないかと。
    橋下さんの関空リニア+伊丹廃止構想ですね。
    もともと関空建設は伊丹廃止が前提だった以上、人口減もあり並立はかなり難しい。
    「近くてコンパクトな空港」の代替は神戸空港へのアクセス速度を上げる。これは伊丹を失う北大阪や兵庫県への補償の意味も込めて、優先的に投資を提供することで対応。
    大阪都心のビルの高さ制限という悪影響もありますし、やはり伊丹廃止の方が望ましいのでは…

    • 大阪の未来構想 Osaka より:

      コメントありがとうございます。

      ご指摘の通り、橋下さんの主張は当時は正しかったと思います。つまり、少ない空港利用者という前提の中、莫大な負債を抱えて経営難の関空を復活させ、かつ伊丹空港の騒音といった”公害”を排除するためには、「関空リニア+伊丹廃止構想」が合理的です。。

      しかし、状況は変わりました。
      関西3空港は好調なインバウンドもあって利用者が当時から急増しており、今後も増える見込みです。つまり、少ない需要を分配するより、大量に押し寄せてくる需要をどうやって捌き、さらに利用者のどんなニーズを汲むかが重要になります。
      【利用者数(神戸除く)】
      2010年:2880万人
      2018年:4645万人(関空水没にもかかわらず)

      一方、中心部から各空港の所要時間は・・・
      【海外】
      ロンドン・シティ空港(バンク駅~空港):21分
      香港国際空港(香港駅~空港):25分
      【日本】
      福岡空港(博多駅~空港):5分
      関空(難波~空港):35分
      神戸空港(梅田~空港):58分

      ビジネス街の淀屋橋や梅田からだともっと時間がかかります。これでは世界どころか国内ですら勝負になりません。
      仮に直通路線が完成した場合は・・・
      伊丹(梅田~空港新駅):13~15分
      かなり有利になるのではないでしょうか?ここに国際線の小型ジェットを飛ばせるようになれば、かなり面白くなります。

      確かに航空法は難儀な存在です。
      ビル制限はその規制自体がそもそも適当なのかも含めて議論の余地があると思います。

  2. より:

    うーん、ある程度認識してましたが改めて神戸空港厳しいですね…。確かにそうなると伊丹しかないという気もしますが…ただ、あそこはモノレールで遅い上にポートアイランドの駅を一個一個止まってるのがかなり響いてるんですよ。そこの整備を、大阪からお金出してでも出来ればなんとかならんかなと思うんですよね。
    それに、もちろん関空の全体需要がかなり伸びてることは知っていますが、国内線需要はこれからも厳しいですよね。

    • 大阪の未来構想 Osaka より:

      確かに神戸空港は周辺(姫路~三宮など)の住民にとってはかなり便利な空港だと思います。
      関空エアポートの戦略上、重視されていないのがちょっと不遇です。

      個人的な意見ですが、神戸空港は将来的には一部国際線とLCCを導入して、地元密着で使い勝手のいい空港として活用すべきではないでしょうか?
      そして伊丹は大阪市内や北摂の需要を満たす空港として存在する。

      一番重要なのは関空エアポートがそれらの空港をどう位置付けるかですが・・・

  3. より:

    神戸空港は民営化されるまで絶賛赤字経営でしたので、不遇というより伊丹が存続する以上もともとなんの必要ないし、これからも関空エアの経営を圧迫するだけの空港であり続け、いずれ民間の判断としてばっさり見放されると思います。

    府市合わせの悪影響に気づき目覚めた大阪府民市民に対し、神戸市民兵庫県民の目がさめるには神戸空港は沈没し神戸市民の税金は神戸沖に沈むしかないのでしょうか?
    私としてはこの負の遺産を出来るだけ有効活用したうえでソフトランディングしてほしいと思います…。

    泉佐野が35分なら神戸であれば20分弱も出来ないことはないはずだし、去年のような関空の危機管理に使えるわけだし、大阪のビルの高さ制限撤廃。
    関西全体として考えれば最適化はここにあると思うんですが…

  4. ポンタ より:

    はじめまして。長文お許しください。この線ですが、正直ハードルがあります。まず、

    >>単純な黒字化するか否かの水準で判断するのではなく、利便性向上やビジネスのプレゼンスアップという多角的な視点で考えることが重要だと思う。
     確かに公共交通は採算のみにとらわれることがなく、ペイできないと分かった路線については費用と効果を考慮しどこまでの赤字なら許容できるか検討すべきでしょう。ただ事業である以上やはり採算性は見過ごせず、この指標は補助金にまで関わってくる可能性があります。国が補助しないとした以上、阪急単独でするのか、補助するならどこがいくら補助するのか(現状では少なくとも大阪モノレール出資の大阪府や、線路が敷かれない兵庫県や大阪市、民間のJRや大阪メトロ(全株大阪市保有)の期待はできません。あとは豊中市くらいでしょうか。)解決しなければなりません。 
     
     次に、鉄道路線が供給過剰になり過ぎない様に気を付ける必要があります。
    大阪空港は日本で7位の利用者数ですが、4~6位の新千歳・那覇・福岡空港のアクセス線も複線の1社1路線(3位の関空も事業者こそ2社であるものの連絡橋は共用で事実上ほぼ複線)であることに鑑みると、モノレールを残したまま新線となると共倒れのリスクを排除できません。人口減少・リニア中央新幹線の開業により国内線の利用者減になると更なる効果・採算の低下が起こってしまいます。空港の運営権が民間の関西エアポートに行った以上、細部にまで介入は行えません(関空のリスクヘッジで国際線が議論されているのは現状神戸が濃厚)。

     また、>>急行は蛍池の前に豊中で停車することも考慮し、空港線が十三~伊丹間をノンストップにできれば所要時間は1~2分程度削減できるかもしれない
    ですが、その場合は曽根から先の本線も速達種別が残るのでしょうか。阪急宝塚線沿線の人口減少に加え、「急行」が空港アクセスと遠距離利用者を兼ねた状態で間に合っている状態ですと、新たな速達種別を設けるほど需要が見込まれるか不安です。

     水をさす様な書き込みになってしまいましたが、この路線の効果はあると思いますし、どちらかといえばですが賛成寄りです。しかし現状では開業に至れないのもまた事実で、そこをなんとかするのが自治体や事業者の腕の見せ所です。「なにわ筋線」も同様でした(橋下知事時代では、なにわ筋線は広域アクセスも兼ねているのに関空への短縮は数分しかないと一転張り(実際は20分以上短くなります)で散々でした)。とにかく丁寧に話し合い煮詰めることが肝心です。

     最後に、貴殿の有益な記事と、私が書いた駄文のご高覧について、心よりお礼申し上げます。

    • 大阪の未来構想 Osaka より:

      はじめまして。

      建設的な意見ありがとうございます。
      かなり鋭い指摘ばかりで参考になりました。

      ★黒字化について
      さて、黒字化の観点ですが、私の主張にかなり粗がありました。ご存知の通り、建設から40年以内に黒字化できるか否かが国の補助金支給の判断基準になります。
      2018年の国交省の調査では、「40年間で黒字転換する可能性が低い。」と判断され、「採算性の向上策の検討が必要」とされました。
      対策の一つは、経費削減です。例えば建設費は700億円と推定されていますが、複線を単線化したり、駅のホームを簡素化したり、建設需要が落ち込んで安く受注できる時期を見計らうなど、できることはあるはずです。
      あとは加算運賃の調整です。現状だとリムジンバスが640円、阪急(220円)+モノレール(200円)が420円です。梅田~阪急・大阪空港駅間は通常運賃220円に加えて、モノレール分200円をまるまる加算しても競争には勝てそうです。ネットニュースにも同じ趣旨のことが書いてありました。

      ★停車駅について
      他にも停車駅の調整が必要で、具体的には曽根駅の停車を検討しても良いかもしれません。
      仮に豊中市と補助金などで連携するとすれば、豊中市内にある駅を停車せず線路を建設することは難しいでしょう。
      曽根駅は豊中市の中にあり、分岐駅であることを考えれば適切でしょう。

      ★航空需要について
      現状の関西の航空需要を見ていると、関空は伸び続けており、大阪空港の需要もかなり底堅いです。関空にはない都市型空港の利便性がやはり強みです。
      で、大阪空港の利用者を見ていると、意外と大阪から地方へ移動する外国人観光客(インバウンド客)が多いと思います。そのことを考えても、梅田~大阪空港の需要は当面は減ることはなさそうです。
      ※ただし中長期的にはリニア開通で伊丹〜羽田便が減少し、その穴を国際線などで埋める必要が出てくるでしょう。

      ★モノレール
      モノレールとのすみ分けも重要な論点の一つです。
      大阪モノレールの利用者数は、2018年度で大阪空港駅は第7位の8,424人でした。因みに千里中央20,762人、南茨木15,569人、蛍池14,580人、門真市11,361人、万博記念公園10,555人であることを考えると、「意外とそんなに多くない」のではないでしょうか?

      また、梅田~大阪空港間のリムジンバスは10~15分に一本の高頻度運行です。梅田など都心部との利用客の競争では、モノレールよりもリムジンバスが大きく影響を受けるかもしれません。

      行政とのやり取りでは、一度で認可が下りることは珍しく、何度も指摘と修正を繰り返してようやく通る、ということが多いです。
      その意味でも阪急は粘り強くコスト改善案を出し、新線計画を実現させてほしいです。